皆さん、「ひとりぼっち惑星」というゲームをご存知でしょうか?
2016年6月に爆発的に流行ったスマートフォン向けゲームで、用意されたストーリーを進めていく他に、同じようにゲームをプレイしているユーザーのテキストメッセージをランダムに受信したり、送信したりすることができるという「新しいSNSの形」ともいえるような機能を持っていることが最大の特徴でした。
誰にいつ届くかも分からないメッセージを送信できるという独特の仕組みから、twitterや他のSNSでも言いにくいことや、ちょっと笑えるささやかなネタ、見た人が笑顔や元気になれるようなメッセージが多く投稿されていました。
そんなゲームを、2017年頃から実に6年ぶりに遊んでみたところ、今やっても非常に素晴らしいゲームデザインであり、そして今でもちゃんとメッセージが届くゲームだったので、改めて体感したこのゲームの良さを紹介したいと思います。
ちなみに、このゲームはandroidとiOSで配信されていますが、androidは自分の端末のバージョンには新しすぎて対応してなかったので、わざわざPCのエミュレーターを使って遊びました。
※エミュレーターを使用する場合、ここからbluestacksの最新版をDLして、古いandroidバージョンを選択すれば遊べます。
- 遊び始めた理由
- ゲームシステムと非常に噛み合ったストーリー
- ストーリーと噛み合った受信メッセージと、これが「ゲーム」である所以
- あまりにも大変な送信・受信システムがもたらすもの
- 受信して良かったメッセージたち
- かつてのブームと衰退に今思うこと
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遊び始めた理由
・まず一番大きな理由は、2023年7月1日から始まったtwitterの障害と、その後の閲覧制限です。
この記事を何年後かに見た人のために一応説明すると、1年前くらいまではほとんどアクセス障害が無かったtwitterに7月1日からアクセス障害が発生し、その後、一日に1000ツイートまで見ることができるという閲覧制限がかけられました。
(この記事を書いている7/5現在も続いています。)
これにより、人々はmisskeyなどのSNSに移住したり、頑張ってtwitterを見続けたりしましたが、結局皆どこのSNSでもを控えるようになってしまい、かなり寂しい状況になりました。
しかも、twitterが終了するかもしれないという不安が世間でとても高まり、なんだかとても疲れたので、気を休めようと思い、始めました。
・もう一つの理由は、作者のところにょりさんの久々の新作ゲームである「違う冬のぼくら」がsteamにあったので、それをやる前に復習しようと思ったからです。
(8/10にswitchなどでも正式リリースされます。)
これについては、遊び終わったらこのブログでも感想を書くかもしれません。
ゲームシステムと非常に噛み合ったストーリー
まず、ストーリーの感想を話します。
ストーリーに関する情報はゲームプレイ画面にはほとんど無く(タイトル画面に書いてあることが全て)、ほぼ全てがテキストで書かれています。
(もちろん、ゲームに使用されているBGMや、優れたグラフィックデザインは世界観、雰囲気を表現するのに多大な影響を与えていますが、直接的に情報を提供しているわけではありません。)
そのテキストも、わずか6つの文章のかたまり(通信)しか無いというコンパクトなゲームになっています。
そして、そのテキストも、ひらがなだけで表現することでそれなりに印象に残るフレーズを作り出してはいるものの、やや説明的なテキストも多く、美しい小説のように、物凄く素晴らしく完成された文章、とはいえないかもしれません。
しかし、それでもこのゲームのストーリーは今でも心を打つもので、ゲームのストーリーとして非常によくできたものだと言えると思います。
それはひとえに、ゲームシステムとストーリーの噛み合いがとても良いからです。
ストーリーのテキストは、あんてなを大きくして通信を「じゅしん」するという形で見ることができます。
しかし、それには結構な手間が必要です。
ジンコウチノウの戦いによって発生したぶひんを指をスライドさせて貯め続け、それを使ってあんてなを大きくし、じゅしんにもまた ぶひんを使う必要があるというシステムになっています。
要するに、当時結構スマホで色々な種類が出ていた、クッキークリッカー系のゲームを模したものです。
端的に言うと時間がかかるんですよね。
しかも、クッキークリッカーと違い、放置では貯まらないため、自分で操作して貯める必要がある。
この長時間の単純作業に、ストーリー的な意味を持たせ、もはや意味のないジンコウチノウ同士の戦いの残骸をひとりぼっちでひたすら回収し、意味のある通信を受信しようとするという世界観的な哀愁を持たせているのがまず秀逸です。
そして肝心のストーリーの内容ですが、そこでは、移民船に乗って人が住める星を目指している(あるいは諦めている)人や、どこかの星に辿り着いて暮らしている人の声が届きます。
それらは、テキスト自体には説明的な部分もあるとは言いましたが、そもそもの「通信が(時間をかけて)一個ずつ送られてくる」という仕組みが非常に優れています。
さらに、「どの通信も共通して、一見幸せそうでも人間の負の部分を表現していたり、私たちからするとディストピア的な世界で暮らしているものになっている」という構成がよくできていて、6つしか無い通信でも、プレイヤーは時間をかけて通信を受信したにも関わらず、人間の行いに残念な気持ちを抱きます。
そして、やはり最も印象に残るのは、ストーリーの最後に送られてくる通信でしょう。
最後には「せいたいへいき」、恐らくはこのゲームでひとりぼっちでジンコウチノウの残骸を集めている「いきもの」の開発者からのメッセージが届きます。
そのメッセージでは、声の主が今初めて「寂しくて、誰かに声を聞いて欲しいというだけで声を送り続けている」ことを話した後に、せいたいへいき にむけて次のようなメッセージを送ります。
ぼく は にんげん が だいきらいだ
でも
どんな ひと だって
やさしく したこと の
ひとつや ふたつは あるし
(略)
だから なんというかさ
ぜんぶ だめな わけ じゃ ないんだよ
ぼくは そのことを ついさっき
はじめて わかったよ
(改行などの表記は改変あり)
まあ…このテキストを載せたらあまりそれ以上言うことは少ないですが、今までわずか5つでも、それなりの苦労をかけて通信を集めるたびに、人間の行いに残念な気持ちになってきて…それでも最後に、その発端となった人がこのことに気づいたんだ、と締めくくるのがとても好きです。
そして、ここで一つの終わりではあるものの、現実の人との通信が始まるところも含めてすごく綺麗だと思います。
それについては次の章で。
ストーリーと噛み合った受信メッセージと、これが「ゲーム」である所以
そして、ここからは見知らぬひとりぼっちの だれかのメッセージを受信することになります。
平たく言えば、インターネット通信です。
このメッセージ受信機能は、2023年でもきちんと生きていました。
そこら辺の話は後でするとして、このゲームで送られてくるメッセージの内容は、全盛期(2016年)も、今もおおよそ似たようなものです。ほとんどの内容は
・悩み事・愚痴・相談
・日記・ポエム(出来事・近況・情景を書いたもの)
・マイノリティ・社会的に何らかの属性を持った人、何らかの経験をした人の話
・ネタ(笑える投稿)
・スパム(意味のない投稿など)
で、現在の環境では上から順に多いです。
結構愚痴や暗い話題も多く、はっきり言って、(自分の場合は)同じ内容が赤の他人から、はてな匿名ダイアリーやtwitterに流れてきたら自ら進んで読む気にはならないと思います。
でも、このゲームではそれらのメディアより大分読みやすい。
それはひとえに、このゲームの世界観にマッチしているからだと思います。
暗くて、ちょっと目を背けたいような内容のものが送られてきても、「このゲームはひとりぼっちの人たちが通信を送りあうゲームだし、何より、色々な人がいて、色々な行いをして、それらがほとんど だめでも、全部だめなわけじゃないんだ」というのがストーリーや世界観を通してきちんと説明されてるのは、とても大きいことだと思います。
インターネットを通じてメッセージを送りあうという、SNS、アプリに近い側面があっても、自分がこの作品を「ゲーム」と呼びたいのは、「主人公(操作キャラ)に何かしらの感情移入をして、その物語の中、その世界観でなければできない体験をする」というゲームならではの特徴があるからです。
あまりにも大変な送信・受信システムがもたらすもの
もう少しシステムの話をしましょう。
まず、このゲームで通信を受信するのはかなり大変です。
ストーリー中でも大変でしたが、クリア後はそれ以上に多くのぶひんを要求されるため、そこそこ苦労して集める必要があります。
そして、どれだけ早くぶひんを集めてもそれだけで終わりではなく、受信するのに25分も待つ必要があります。
これが良いんですよね。
一見すると無駄な手間と時間ですが、25分も時間があると、必然的にそこで一度ゲームを閉じて何か別なことをする必要があります。また、どれだけ部品がたまっていても必ず25分待つ必要があることで、連続で通信を受信できないようになっています。
このゲームは、やりとりされる一つ一つの言葉の重みを重視したゲームです。
単に知らない人にメッセージが届くというだけでも、悪くはないのですが、それがいくらでも自由に送受信できると、見た目的にそれに重みを感じるのは難しいと思います。
25分かけてスパムが送られてくると悲しいですが、それは今や全盛期の頃は1/10あるかないかで、おおよそ健全な範囲に収まっていました。
そして、送信はもっと大変です。
まず、送信にはさらにに多くのぶひんを集める必要があります。
しかも、通信を書く「タイプライター」は非常に打ちにくく、ある程度の長さのメッセージを書くのにはとてつもなく時間がかかります。
自分はtwitterの近況を伝えるメッセージを書くのに30分以上もかかりました。
しかし、この送信するまでのハードルの高さ、送信を書くハードルの高さは、意味が薄い投稿やスパムを低減するのに大きく貢献していると考えられます。
ここまで苦労をして意味の無い投稿をする人はかなり少なく、多くの人が一生懸命に打ちにくいタイプライターでそこそこの長さのテキストを送ってくれます。
いったんブームが終わって忘れ去られたとき(2017年初頭頃)には、それでもスパムが多すぎてやめた記憶がありましたが、今はまた、かつての雰囲気が戻っています。
また、これらの送受信に手間をかけさせる要素が世界観にマッチしているのがいいところです。部品を集めるのにも、待ち時間があるのも理由があるのが良いです、
マッチしているからこそ、このゲームの世界観を気に入った人であれば頑張ってこのゲームを遊び続けます。
全くマッチしていなければ、逆に暇人だけが集まることになりスパムが増加していたでしょう。
受信して良かったメッセージたち
とはいえ、自分も今このゲームをやってる人がそもそも存在してるのか見当がつかず(最新のandroidではそもそも遊べないし…)、スパムばかりが来るか、ちゃんとしたものが来るか、五分五分で予想していたので、14件くらい受信したうち1件しかスパムが来なかったことにとても感動しました。
まあ、色々なメッセージが来ましたが、その中で一番良かったやつをせっかくなので紹介したいと思います。
ひとりぼっち惑星の通信って転載していいの?と思うかもしれませんが、このゲームにはスクショ・共有ボタンがあり、それが流行の一因にもなっていたゲームなので、私は良いものと認識しています。
(中略あり)
いやー、こういうのだよなー、このゲームをやる理由って……
シンプルな文面でセンスがある文章を書ける人って、やっぱりすごいなと思います。
他には、上半期は つわり がひどかったけど、頑張って良かったと思えるよー、とか、夕日がきれいなところにいるよー、とか、そういった通信が届きました。
ロケットニュースの2022年の記事では、数年前の通信と思われるものが届いたらしいですが、自分のところに来たもののうち日付が推測できるものは、一週間以内のものでした。(何年か前の同日とかでなければ)
ただ、一個「秋」のものがあったので、それが本当にその時期に送信されていたなら結構前ではありますね。
かつてのブームと衰退に今思うこと
ここからは昔話になります。
※個人の記憶に基づいて書いている話題なので、明確な根拠があるわけではありません。根拠を用意するのは困難なので、話半分くらいに聞いておいてくれたら嬉しいです。
このゲームが流行ったときは、毎日のようにひとりぼっち惑星のスクショがtwitterに貼られ、さまざまな立場の人の悩み事だったり、マイノリティの証言みたいなやつとかがtwitterを飛び回っていました。
今togetterを見てもちょっとしか残っていないのですが、当時は、今は亡きNAVERまとめの方が色々なものをまとめていた気がします。
そのブームが急速に衰退していったのは、人気に反してあまりにも高い送信と受信のハードル、はもちろんあるのですが、スパム、そして悪質なデマの拡散の増加があったと記憶しています。
このゲームには、マイノリティや、何かしらの要因で少数の立場にいる人が自分自身について話す投稿が結構多い、と書きました。
その中で、それについて不正確と思われる情報を投稿する人が、twitterで話題になり、自分も受信したことを記憶している程度には増えたのです。
それらに悪意があったのか、それとも、悪意無く、自分や友達について知ってもらうためにネットで調べた間違った情報を書いたのか、気まぐれななりきりだったのか、知る由はありません。
それでも当然、切実に真実を書いている人が確かに存在した(とみんなが思っていた)中で、それはかなり物議を醸しました。
自分も、本当なのかよく分からない投稿を25分かけて読むのがなんだか馬鹿らしくなり、やめてしまいました。
でも…あれから6,7年経ってやって、改めて思うのは、人間、全部だめなわけじゃないんだということです。
今回やって受信したメッセージも、本当にマイノリティの人が書いてて、本当にそのようなことで困ってるのか分かりませんでした。それは判断する由がありませんから。
でも、それでも、それがもしかしたら本当かもな、と思うのは、「良い人間」の実在性を感じられる行為だし、その儚さもこのゲームらしいなと思うようになりました。
それに…紹介したように、これはきっと一生懸命書いたんだろうな、そう感じた人が書いたんだろうな、というメッセージもたくさん見ることができました。
100%というのはあり得ないわけではありますが…でも、空白の使い方がつたなかったり、誤字があったり、逆にセンスが良かったりすると、少なくとも人間が書いたということは強く感じることができます(デマも人間が書いてはいるのですが)
そういう、人とのささやかな「つながり」を得られるゲームって素敵な場所だな、と思いました。
そして、受信した中には、きっと1件以上は本当のことが書いてあった通信があると私は信じています。
ありがとうございました。