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『マグロちゃんは食べられたい!』2巻の感想を真面目に書く記事(ネタバレ)

今日、最終2巻を読みました。

あ、ネタバレだらけなのでまだ読んでない方は絶対に見ないでください。

この作品は様々なネタバレがあるので、他にもあんまり情報を見ないで読むことをおすすめします。1巻のamazonレビューくらいはいいけど…

以下ネタバレ

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、個人的な感想としては、今年読んだ漫画作品の中で最も印象に残りました

 

そして、この作品を描いてくださった はも先生、本当にありがとうございました…………。

 

月並みにはなってしまいますが、この作品を今日読んだことは、これからも到底忘れることは無いでしょう…

というか、「忘れたくない」作品と強く思わせてくれるような作品でした。ありがとうございました。

 

 

いやあ……やはり、何かの形で、ずっと、10年経っても世界のどこかで語り継がれてほしい作品だと思います。

それくらい、他に類を見ない、しかし私たちが生きていく中で大事なこともたくさん詰まっていて、しかも表現も非常に素晴らしい作品でした。

 


1巻の感想の記事に書いたように、「共生」を現代の実情に近い価値観で描いた作品は、私が子どもの頃は決して多いとは言い難かったと思いますが、今では世の中に多く見られるようになりました。 

そして、「多様性」を題材にしたり、「擬人化」でそれを表現したりする作品も。

 

でも、この作品の最も大きな特徴は『分かり合えない』ということをこれだけ真摯に描いた、そして一貫して描き切ったことだと思います。

 

 

そして、もう一つの特徴を挙げるとすれば「ギャグとシリアスのシームレスさ」でしょう。

 

よくある、「ギャグのパートがあれば、シリアスなシーンもある」とかではもはや無い。

ギャグが、そのままシリアスなこと、すなわち価値観の断絶を表しているというのは本当にすごい表現だと思います。

個人的に、創作、フィクションというものの大きな良さの一つとして『難しい課題や直接的は言いにくいことを、楽しい表現で表せる』というものがあると思っているのですが、この作品は正にそれを突き詰めた作品だと感じました。

 

二巻で特に好きなシーン

p32.

「ますます仲深まっちゃった?」
「深まったのはむしろ溝かしら…」

あまりにもこの作品の本質すぎることをギャグで済ませてるのがすごい。

p.62の「私は人でもないですが…」も、あらゆる場面でそこら辺の姿勢を本当に一貫して表現してるのが良いよなあと思います。


p.68

これ……

最後まで終わってから見ると、どうしたんでしょうね…

やっぱり、してあげたのかなあ…………

 

p.84

このくだりがあるの、すごくない????

 

そして、みさきも、まぐろもこの会話を聞いてない(聞いてないところで話した)というのが本当にすごいことだと思います。

 

これって、かなりメタ的な話ですよね。

 

マグロの掟は、過酷なマグロの世界で生きやすいように作られたものかもしれない。 そういう点だけを踏まえれば、今、天敵に捕食されることもなく、(恐らくは)そう簡単に死ぬことは無い状況であろう まぐろは、そんなに掟に従う必要は無いのかもしれない。

 

でも…じゃあ、掟に従っていることは非合理的だと言えるのか?といったら、それは絶対に言うべきことでは無いと思います。

 

特定の自然環境や、社会環境などで生きやすいように作られたとされているのは、私たち人間の国ごと、地域ごとに異なる文化や伝統、法律にも当てはまります。

それならば、もし私たちが外国に住むことになったら、まあ法律は現地のものを守らないといけませんが、今まで持っていた文化や価値観を全て捨てるのが正しいのか?といったら、やっぱりそれは正しい、正しくないと決められるものではないはずなんですよね。

 

 

(この時いなかった)みさきとまぐろが、こういう事をどれくらい考えていたかは想像に委ねられていますが、でも、やっぱりみさきはあの選択を迷う過程の中で掟のことを考えはしたと思うし、まぐろも、自分なりには、ヒトの価値観や他の魚の考え方に触れたことで、他の種族や他の魚にとっては自分が知る掟が全てでは無い、ということは十分感じたことと思います。

 

そして、その上であの選択に至った。

 

それは、みさきとまぐろにとって最善の選択の一つだったのだろう、「間違った」選択は決してしなかったのだろうと思います。

 

……という『あの選択』の過程を間接的に想像できる情報や、その背景として(読者がメタ的に)知っておきたい情報(※)がこのような形で入れられているのはかなり真摯だと思います。

(※)文化や伝統などは、それぞれの地域の暮らしに合わせて作られたものが多いのは事実ではあるが、それが必ず、暮らしが変わったときに今までの文化を捨てる理由になるわけではないということ。

 

p101

「~本当に大事なのは 人も魚も関係ない キミとボクの気持ちだったのにね」

 

もう、この作品で一番大事な台詞の一つなんじゃないでしょうか……

 

みさきとまぐろはこの後、本当に、本当にこのことを真剣に考えたのだと思います。

 

相手に親切にしているつもりでも、つい、それは相手は魚だからこういうことが良いんじゃないか、あるいは、まぐろはこういう考えだから他の魚もこういう考えなんじゃないかと思ってしまう。

そこから脱出することは、本当にすごく大事なことな気がします。

 

 

p.107

「みさきもまぐろちゃんにあだ名つけたりしないの?」
~「名前までマグロじゃなくなったら終わりなので…」

これもすごいよな……人間の文化とある程度交わった魚たちと、決して交わらない魚がこんなギャグで表現されてるのすごすぎる。

魚だって価値観は様々なんだよね…

 

p109

さしみちゃんの考え

これが単行本追加エピソードなのすごくない????

 

最終的には、自身の倫理観をある意味一部犠牲にして、まぐろの種族自認を尊重したみさきと、完全に対になってる人が最終回の前に出てくるのは、もう……すごいよ……

 

泣きじゃくりながら自分の価値観を主張するクロさんに対して(掟がなく、ある程度人間の文化に慣れていてもこういう考え自体は持っていることを表現したのも良い)その種族自認、価値観を完全に否定し、自分の文化に沿ったことを行うと主張するさしみ。

 

相手の尊厳を傷つける可能性がある行動ですが、でも、やっぱりこれも決して「悪い」と言えることじゃないと私は思っています。

 

この作品でのルールは、文化とも近い意味で表現されていますが、そう考えると、人間の文化に反して、魚に戻ったクロさんを食べることは、さしみにとっては、クロさんの代わりに自らの尊厳が失われることと同じことなのでしょう。

 

たまたま、みさきはまぐろの方の価値観を尊重する方を選んだというだけで、それが「絶対的な正解」なわけではない。

あの結末は、私たちの価値観にとってはややグロテスクな結末とも言えますが、別な選択をしていればみさきの尊厳は守られ、まぐろの価値観は踏みにじられたといえるでしょう。

 

…ということが補完として示唆されているのは本当にすごいことだと思います。

 

 

個人的な意見ですが、こういう選択をしないといけないことは、私たちの世界でも起こりうることだと思うんです。

異なる文化の人に合わせたことをすれば、場合によっては元々の自分たちの文化や、それを支持する人たちの尊厳が失われてしまう。

そういう場面で、単に、(それぞれの立場にとっての)お互いの文化の悪いところや自分たちの文化の良いところを主張したり、一方の善悪を決めつけるだけでなく、少しでも分かり合おうとする努力をしたり、色々な視点で考えてみようとすることは、きっと、結果的にどちらかに合わせる選択をするにしても重要なことだと、私は信じています。

 

最終回

まず黒背景のパートから……

「~マグロとして生まれたことも 掟を信じてきたことも 全部が私の一部ですから」


そうだよねーーー、価値観ってそうだよね……別に生活する場所や生活の仕方が変わったら、皆が今までの価値観を全部捨てられるなんて、そんな事あり得ないよね………

 

上の「掟」のところでこの話はしましたが、それがまぐろ自身からはっきり明言されたのが印象的でした。

 

・黒背景最後の列

 

単純に4コマ漫画が上手すぎるコマの表現………

二人が願っている同じこととは、きっと、ずっと二人が一緒にいられること…でもそれが完全には叶わない儚さ……ここで改めて「日常」の文脈に乗るのが強いなと思います。

ずっと続けることはできない状態の日常、でも、それを取り巻く考え方は異なるという…

 

 

・・・・・

 

 

まあ……ここまで書いたら、最後についてはなんかもう、逆に言うことあんまりなくない……?

 

いや、最初見たときは流石にえ????え?????マジで?????という気にはなりました。

話の最初からこの結末はあり得るものとして予想されたし、終盤の話の展開的にも、二人がお互いの価値観を分かり合うのは困難な感じではありました。

 

それでも……二人が、分かり合う努力をしてきた、色々な可能性を探ってきたからこそ、このコマの重みはとても大きいものだと感じました。

 

でも、やっぱりそうだよね……

『分かり合おうとすれば絶対に分かり合える』なんて、そんなことは無いんだよね……

 

それを本当に、本当に最後まで一貫して描き続けてくれた作品だったと思います。

 

 

さっきも書きましたが、マグロの価値観に合わせるのと、人間の価値観に合わせてもらうの、どちらが完全に正しいかというものは存在しないでしょう。

 

でも、みさきが苦労してでもこの道を選び、まぐろがそれに納得したのであれば、きっとそれはまぐろとみさきにとって「良い」選択だったのかなと思います。

 

なにしろ、まぐろとみさきは本当に一生懸命に、道を探し続けてきたわけですから………。

そして、それは「願いは同じだからこそ」であり、魚だから、ヒトだからではなく、「それぞれの個人(個魚)の気持ちを尊重したから」でしょうからね…

 

 

…まあ、「伝説の最終回」と言えば、間違いなくその通りではあるんですが、単に最終回が良いというだけでなく、やはりこれまで積み上げてきた過程と、その表現の良さがあったからこそ生まれた感動を感じました。

改めて感想

いやもう、とにかく最高…というか、唯一無二のテーマを真摯に最後まで描き続けたという意味で、最強の漫画だったと思います。

 

なんか……やっぱり、またいつかどこかで、はも先生の、近いテーマの作品が見れたらちょっと嬉しいな………

 

とにかく、この作品のことはずっとずっと、忘れません。覚えていたいです。
(まぐろを食べるときにはちょっとあんまり思い出したくない気もしますが…)

 

 

改めて、本当にありがとうございました。

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